『自然との共生』
前回は森のようちえんを「照乃ゐゑ」へ活動拠点を移した経緯をご紹介いたしましたが、
今回は、「どうして、一度、森のようちえんの園長を辞職したのか?」という、より突っ込んだ話からはじまります。
その前に、皆さんに知っていただきたい前提として、森のようちえんでは、できる限り自由に、やりたいことができる園にするために、公の認可をもらっていません。
学校運営というのは、私立をみればわかるように市や国の援助がないと大変お金がかかるものです。
太郎さんのツアーガイドで得た利益も、園運営のために使われています。
そして、より充実した園運営のため、年々、ツアーの数を増やし、今年は例年の2倍。8本のツアーを敢行していました。
ですが、逆にそのことが、園長を辞職する原因に繋がっていったのです。
「まず、園長が長期不在であることは、スタッフとの意思疎通、コミュニケーションに影響がでました。そして、森で遊ぶようちえんであるはずが、僕がいないことで、安全管理のためにダイナミックさを失っていきました。
さつきやま森のようちえんは、『コーチング』の要素も大きな柱としてもっていますが、僕がいないことで、バランスが崩れ『自然』の要素の比重が少ない森のようちえんになってしまっていたのです。」
もちろん、長期に運営を任している以上、現場の責任者の考え方に園が染まっていくのは、自然なことでした。ですが、同時に、園での太郎さんの居場所もなくなっていきました。
太郎さんといえば、元気で明るく、誰からも好かれる、超ポジティブ人間的なイメージがありますが、この頃、体調もプライベートも含め、自分とハードに向き合うタイミングがきていたようです。
本当は、自分はどんな人間で、自分にとって大事なものは何か?どう生きるかを徹底的に問われている時でした。そして、もちろん「森のようちえん」事業も関わり方の見直しを図るタイミングだったのです。
長期の旅を間近に控え、太郎さんはある友人の言葉に、森のようちえんの園長の座を一旦、手放す事を決心しました。
「大事なものは、手放してもブーメランのように返ってくる。」
大事だからこそ、心の奥底では必ず返ってくるとおもっているからこそ、一旦手放したのだそうです。
なので、スタッフや保護者など内むきには知らせていましたが、公にはしていませんでした。予想では、旅が一段落した11月には、再び戻ることになるかと予感していたそうです。
ですが、時期は早まりました。
旅に出て早々に、前回、お伝えしたように、サンフランシスコのフォレストスクールの先生との出会いで、「日本の自然観、文化」を後世に引き継いていく使命を感じ、やはり森のようちえんの事業が自分にとって欠かせないものであることに気づかされていた頃、
森のようちえんを任せていた初期メンバーがそれぞれの転機を迎え、新学期の9月からいなくなることがわかったからです。
太郎さんが自分と向き合っていたように、スタッフも自分と向き合うシンクロが起きていました。
森のようちえんは、子供もですが、大人も、今やりたいことが一番です。大人がやりたいことをやっている姿が子供に大きな力を与えています。でも、子供を預かる園の経営者としては責任を果たす義務も生じます。
「経営者としては、園の存続と安全、安定は一番に考えています。スタッフに安心して任せられるときは信頼して任せますが、もともと何かあったときは、すぐに戻るつもりでいました。ただ、どうせ戻るなら、この機会によりバージョンアップさせて戻ろうと考えたのです。
ただちに、対応を考え、まずは、保護者説明会から始めました。そこで、現状報告、それぞれの疑問や質問にお答えし、これからのビジョンをお伝えして、このやり方に賛同される方に残っていただきました。
その中で、僕の子供たちが卒業しても、園が存続するのかという質問がありましたが、
もちろん、存続させます。そのためにも、同じ思い、同じスキルの後継者を育て、存続させる仕組みをつくるのが急務だとおもっています。
それは、前回もお話したように、日常的に里山の生活が組み込まれることで、子供だけではなく、スタッフも育っていきます。
現在、既に、『照乃ゐゑ』の活動がスタートしていますが、保護者も参加してくださる方が増え、森のようちえんに関わる人みんなに、日本人としての失いたくないものの引き継ぎがはじまっています。
今、国連やエコツアー業界では、『サステナブル(持続可能な利用と開発)』という考え方が世界的にもようやく主流になりつつあります。
要するに、地球を持続可能な状態で開発し、利用して守っていくという考え方なのです。自然の中で採れるものを壊さないで採る。
地球という元本があって、その利息分を人間が使うという考え方なら、地球は壊れずにやっていけるという考え方。
だから、サステナブルツーリズムも、大型のホテルをバンッと建てるのではなく、今そこにあるものを、そのまま使って、地域にお金が落ちることで自然を壊さなくても、ちゃんと経済が回っていくということをやる旅行の考え方なのですが、
言い換えれば『自然との共生』で、日本に元々あるこの考え方を、森のようちえんを通じて、子供、親、スタッフに継承していくことで、地球を守ることにつながると考えています。
今年は、世界を127日間かけて旅して、僕たちが当たり前のように受け継いだ日本人の自然観は、すごく珍しく希な思想だったと知り、これを継承していくことが日本人として地球を守ることに貢献することに繋がると確信しています。
それは、こちらからの一方通行の情報ではなく、保護者の方がそれぞれ持つ保存食や発酵食品の作り方を相互に情報を共有したり、保護者もスタッフもみんなで一緒になってやっていける場が既に『照乃ゐゑ』で生まれています。
来年からは、ツアーを学校の休みにあわせて行い、極力、園長が不在である時間を少なくしていきたいと考えています。」
すべてを包み隠さず話している太郎さんは迷いの時期は抜け出たようで、軸がぶれることなく、森のようちえんの新しい方向性を示してくれました。次回は、この冬の照乃ゐゑで子供たちにおきている素敵なことを報告します。
※このブログシリーズは「さつきやま森のようちえん」の元保護者で、太郎旅の参加者でもあるライターの山田詩乃が、読者目線で、太郎さんに今、聞きたい事をインタビューし、まとめたものです。
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